私のための美容備忘録

アラフォー女性の日々のコスメ、美容記録。

落選したエッセイ2019「宝石と私」

「付き合って10年経ったらダイヤがいっぱいついた指輪を買ってもらうからね」

 昔付き合っていた人にそう言ったことがある。

  結婚願望のない人とお付き合いをしていたときで、結婚したいけれど彼と一緒に過ごしたい気持ちが勝ってしまう自分が悔しくて出た言葉だ。それでも、はめる指を決めるのが怖くてつい「ピンキーリングがいいな」と付け加えて自分の心守った。ピンキーリングならいつまでもつけ続けられると思ったからだ。

 10年目だったか、それより前だったかはもう覚えてないけど、彼はちゃんと覚えていてプレゼントしてくれた。本当にダイヤがたくさんついていて、きつい冗談として言った私は結構申し訳なく思ったことを覚えている。
 ゴールドのリングに美しいカッティングのダイヤがいくつもはめ込まれている。手が動くたびにキラキラとひかる。特別な日はもちろん、ピンキーリングだからカジュアルな私の服装にもぴったりだし、毎日会社にもつけていけるものだった。

 センスのある人だったけれどそれ以上に、私に似合うものを何店舗も探しまわってくれたんだろうとすぐに想像がつくくらい、とても素敵な指輪だった。
 そういうところが好きで、そういうところに愛情を感じるのになぜ私たちは結婚しないんだろう。すごく嬉しいのに“結婚”という文字がどうしても浮かんでしまい、そのダイヤを曇らせてしまうことを悲しく思った。

 お別れをしてからもその指輪は大事にしているし、つけてもいる。彼のことを思い出してしまうけれどそれでも美しい指輪だ。
 その美しさの中に曇りや濁りがあったとして、世の中の宝石に、宝石の持ち主たちにそれがまったくないなんて思えない。人生に様々なスパイスが混ざってこそ放たれるひかりがあるように、宝石だって単純な華やかさだけでひかっているわけではないのだ。
年を重ねて皺っぽくなってきた私の指にいっそうきらびやかなダイヤが似合う理由は、そういうことではないだろうか。